絵だけに限っても、ルーブル美術館をはじめ、その充実度はそれはそれは見事なものです(ロンドンも確かにすごいのですけど、ロンドンのアドバンテージはむしろテート・モダンに代表されるような現代アートなのかな、とも思います。)。でも、ルーブルには5月の旅行で行ったこともあり今回はパスして、オルセー美術館に行ったのがパリ2日目の昼です。ここも、特に印象派の絵の充実度がハンパではなく、もちろん昔世界史の教科書で見たことのある絵もちらほらと。加えて、アール・ヌーヴォーの工芸品もなかなかの見ごたえです。
で、そういった芸術の気風は、この街のいたるところで見受けられるわけでして、そういった場所を目的もなくそぞろ歩くのもまた風流ってなものですよね。
そんな街のスナップをまずは少々。
街の通りの表示です。これだけでも風情があるなあ、と思うのは買いかぶりすぎでしょうか?
どこかの何かのエントランス。上には廃材を利用したオブジェが!
ぱっと見では気付かなかったのですが、ペットボトル製クリスマスツリーです。
日本でも人気(らしい?)のマカロン。僕自身は熱狂するほど好きではありませんが、こうやって色彩を楽しめるのはいいですよね。
何気ない街角のカフェ。
いろんな芸術家が、こんな感じのカフェで芸術談義に花を咲かせていたのでしょう…。
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さて、我々は、その後モンマルトルに出かけました。
もしかしたら、ここが僕にとって一番好きなパリなのかもしれません。ふもとのピガール駅の辺りはややごちゃごちゃしているものの、ちょっと上がればいまでもユトリロの絵を髣髴とさせる路地裏や階段が。そして、サクレ・クール寺院の近くの広場では、絵描きたちが実際に自分の絵を売っていたりします。そういった風情を周りのカフェから眺める、というのも、また格別の興趣があるわけです。
実は今回モンマルトルに来た目的の1つは、こういった絵描きから絵を買うことにありました。
芸術の薫りが一杯の場所で絵描きから自分の気に入った絵(それもいわば一点モノ!!)を買うなんて、なんかとっても贅沢な感じがしませんか?前回5月に来た際には貧乏性が災いして買えなかった分、今回こそは買うと腹を括ってのモンマルトル入りなのでした。
…僕は、いずれアジアに戻った時に自分の家に飾るための、ユトリロっぽい色彩の、飽きが来にくい絵を探していました。それも、できればこの界隈を描いたもので。でも、自分のお目当てのものってのは、なかなか見つかりにくいものでして、小鴨とああだこうだ言いながらこの広場を2周か3周ぐるぐるした結果、香港出身のアーティストから水彩画を買いました。ユトリロのような、というわけには行きませんでしたが、柔らかい線に優しい色調で描かれた、春から夏にかけてのモンマルトル界隈の絵。
さて、肝心のお代なのですが、これが50ユーロ。これが高いか安いか、というのは、なかなか難しいと思いませんか?だって、原価は(本人の人件費を除外すれば)、紙と若干の絵の具代でおそらく10ユーロはしないものですよ。とすれば、50ユーロというのは、結局、「その画家の芸術性」という、目に見えず、かつ、そもそも価格計算の根拠のないものへの対価なわけです。でも、芸術家にとっては、たとえ50ユーロであっても、自分の芸術性が(金銭的にも)評価されたということは、やっぱりうれしいことなのでしょうね。実際、このおじさん、僕らが50ユーロを出した時とてもうれしそうでしたし、隣の仲間の絵描きから、「おー、売れてよかったじゃないか」みたいな事を言われてましたから。もしかしたら今日は、絵描き同士でどこかで飲みに出かけているのかもしれません。
そして、僕自身も、形こそ違え、「サービス」という目に見えないものを売る職業であるがゆえ、その金銭的価値評価の難しさ(言い換えれば、どうすればお客様が満足してお金を払ってくれるか)にはいつも苦しめられてきました。だから、この50ユーロというのは、自分がそれだけの価値があると判断して出したんだ、と、ともすれば貧乏性になりやすい自分自身を得心させたのでした。
…とまあ、話が逸れましたが、ともあれ「モンマルトルで画家から絵を買う」という目的を達成して満足して広場から離れようとしたら、横で小鴨が何か後ろ髪を引かれているようです。なぜか理由を尋ねると、「絵描きたちのうちに、全く商売っ気がない風で自分のモダンアート作品を売っている一人のおじいさんがいた。ここじゃあモダンアートはお土産にはなりにくく人気がないだろう。なので、このおじいさんがこんな寒い冬の日に1日座り続けたとしても、全く売れてないんじゃないか。そう思うとかわいそうで見捨てられない。せめて何か安いものでも買ってあげて助けてあげたい」というじゃありませんか!
僕自身は、既に50ユーロも出していたこともあり、「まあまあ、ここにいる人たちは、みんな売れようと売れまいと、そういう生活をしたいからいるのであって、売れなくたって別にどうってことないはずだよ」となだめたのですが、小鴨はどうしてもおじいさんがかわいそうで気になって仕方ないと言い続けます。
そこで、僕は、ちょっと散策した後、「じゃあ、今から広場に戻ってそのおじいさんがまだ売っていたら買ってあげよう」という提案をしたところ、小鴨が「うん」と言って広場にカムバック。果たしておじいさんはまだ自分の作品を広げていました。なので、比較的安そうな作品(壁飾り)を手に取りつつ、おじいさんや隣の絵描きのおばさんからいろいろ説明してもらった後、そのおじいさんが使う典型的な色調である金と赤のものを買いました。お代35ユーロなり。
その後僕らはカフェに入ったのですが、小鴨はかわいそうなおじいさんを助けてあげたという気分で大満足。買った作品を見ながらそれにもだんだんと愛着が湧いてきたようです。僕自身も、その色調は、ちょうど春節のころなどさりげなく飾るのもおしゃれだな、と思いました(日本の場合だと、春節に外にべたべた中国風の飾りを貼り付けるのもなんですしね。)。
…と、僕はふと思いました。せっかくだからこのおじいさんと写真を撮れば、と。
その時点で既に買ってから1時間ほど経っていたのですが、やはり「まだ売っていたら」ということで広場にまたまた舞い戻ったところ、おじいさん、まだ頑張って自分の作品を広げているではありませんか!よほど生活に苦しいのでしょうか…。
さすがにちょっと気恥ずかしかったのですが、小鴨が勇気を振り絞って「一緒に写真とってくれませんか?」と言ったところ、おじいさんは快諾。小鴨とおじいさんは仲良く写真に納まったのでした。
その後、おじいさんは小鴨に一言。
「あれから、もう1つ大きい作品が売れたんだよ♪」
確かに上の写真でも、左側のボードの上半分に何もないでしょ?あそこにはその大部分を占める立派な作品があったのでした。
そして、小鴨の中で(きわめて主観的に)醸成されていた「かわいそうなおじいさん」のイメージが、音を立てて一瞬にして崩れ去ったのでした…。
さて、最後に我々のモンマルトルでの戦利品を、ここに。
写真中央:香港出身のアーティストから買った水彩画
写真左下:実際はあんまりかわいそうではないおじいさんから買った壁飾り
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