2011年7月7日木曜日

エレミア哀歌

エレミア哀歌、ってのは、ユダヤ教徒かキリスト教徒かヨーロッパの宗教音楽をかじっていないとあまりお目にかからないものではありますが、まあ、端的に言えば、旧約聖書に見られる、預言者エレミアがバビロン捕囚にかかわる出来事を嘆いたもの、とご理解ください。

で、僕の場合は、上記の3類型のうち、一番最後の類型でエレミア哀歌を知ることになったわけです。エレミア哀歌は、複数の作曲家が曲をつけていますが、僕にとってなじみが深いのが、イギリスはテューダー朝時代の作曲家であるトマス=タリスの5声のもの。いわゆる(って、ごく一部の好事家だけでしょうか?)「タリスのエレミア」ですな。これは、大学1年生のときの定期演奏会のレパートリーだったのですが、僕の歌ったパート(カウンターテナーの1つ下の声域=Tenor1)は、何かとおいしいところが多かったせいか(特に最後の“convertere ad Domunum Deum tuum”の最後の言葉“tuum”を、他のパートが和音を鳴らす中で何小節かにわたり8分音符で駆け上がり駆け下りるところなど、今でも想像するだけでぞくぞくします。)、未だに自分のパートならほぼ暗譜で歌えるんじゃないかな。

話は変わって、ボーンマスを離れる少し前の出来事。
ある日、僕はちょっと用事があってボーンマスのTown Centreに出かけたのですが、帰りのバスまで少し時間があった上に雨がぱらついてきました。こういうときにタダで時間をつぶせるありがたい場所は、どこだと思います?


…答えは教会。神様には申し訳ありませんが。


というわけで、近くにあったカトリック教会にお邪魔したわけです。
この教会、ボーンマスにある他の宗派の教会に比べて、やたら重厚感があり、お祈りする人たちの姿も真剣そのもの。この日も2,3人の人が熱心にお祈りをささげる中で、僕は場違い気味に椅子を拝借していたのでした。
で、しばらくすると、お祈りをしていた人たちがみんな教会を後にして、教会には僕一人となりました。

…うん、僕には、イギリスに来てやってみたいと思ったことがいくつかあって、そのうちの1つに、「教会で宗教曲を歌うこと。できればイギリスの作曲家のものを」ってのがあるんですよ。
しんと静まり返った教会。当分は誰も来そうにもない。舌をはじいてみればこれがなかなかのいい音響。そして口からついて出たこのフレーズ…


Incipit Lamentatio Jeremiae Prophetae…
(預言者エレミアの嘆き、始まる。)


…始めはやや遠慮がちに。次第に調子に乗ってだんだん大きな声に。
で、結局、「タリスのエレミア」の第一部のTenor1をしっかり歌ってしまいました。


まあ、ぜんぜんまともな発声ではありませんでしたが、カトリック教会で「タリスのエレミア」を曲がりなりにも歌ったことで、僕のイギリスに来た目的の一つ、まずは達成した、ってことにしておきましょう。


…神様ゆるしてね。

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